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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)2016号 判決 1968年7月25日

原告 渡部昭典

右訴訟代理人弁護士 酒井什

被告 本間武

右訴訟代理人弁護士 藤井光春

主文

一、被告は原告に対し別紙物件目録記載の建物につき昭和四一年一一月一六日東京法務局練馬出張所受付第五九一七七号をもってした抵当権設定登記ならびに同日受付第五九一七八号をもってした停止条件付所有権移転の各登記につき、原告が被告に対し金一〇万円とこれに対する昭和四一年一一月一六日以降昭和四二年三月一五日まで年一割五分、同月一六日以降支払いのすむまで年三割の割合による金員の支払いをするのと引換えにその抹消登記手続をしなければならない。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(当事者の申立)

原告は主たる請求として「被告は原告に対し主文掲記の各登記の抹消登記手続をしなければならない。訴訟費用は被告の負担。」との判決を求め、予備的請求として「被告は原告に対し、原告が被告に対し一〇万円とこれに対する昭和四一年一一月一七日以降昭和四二年三月一五日までの利息ならびに同日以降の損害金を支払うのと引換えに主文掲記の各登記の抹消登記手続をしなければならない。」との判決を求めた。

被告は原告の主たる請求、予備的請求のいずれについても「請求棄却、訴訟費用は原告の負担」との判決を求めた。

(当事者の主張)

(原告)

第一、請求原因

一、訴外東英自動車株式会社(以下訴外会社という)は、被告との間で昭和四一年一一月一六日、弁済期を昭和四二年三月一五日、利息を年一割五分と定めて一二〇万円を借受ける旨の契約をした。

二、原告は被告に対し訴外会社の右金銭消費貸借契約上の債務につき物上保証することとし、原告所有の別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)について抵当権設定ならびに停止条件付代物弁済契約をし、昭和四一年一一月一六日東京法務局練馬出張所受付第五九一七七号をもって抵当権設定登記を、第五九一七八号をもって停止条件付所有権移転の仮登記を各なした。

三、ところが被告は昭和四一年一一月一六日訴外会社に対し、一〇万円を交付したのみでその余の一一〇万円の交付をしないので訴外会社と被告との間において前記金銭消費貸借契約は一〇万円の限度でのみ成立した。

四、原告は昭和四二年三月一日、右債務の元金一〇万円とこれに対する同日までの利息の合計として一〇万四三五七円を訴外会社に代位して弁済したので、右消費貸借契約による被担保債権は消滅した。

五、よって前記抵当権設定登記および停止条件付所有権移転仮登記の抹消登記手続を求める。

六、仮に前記弁済の効力が生じないとすれば、原告において元金一〇万円とこれに対する昭和四一年一一月一七日以降昭和四二年三月一五日までの利息金ならびに、同日以降その支払いまでの遅延損害金の支払いをするのと引換えに前記各登記の抹消登記手続を求める。

第二、被告の主張に対する答弁

被告の主張事実は否認する。

(被告)

第一、答弁

請求原因第一項の事実は否認する。同第二項の事実中、原告が物上保証人として本件建物につき、原告主張のとおりの各担保権設定契約をし、その主張のとおりの登記をしたことは認めるが、被担保債権の内容については争う。同第三項の事実中、訴外会社に対し原告主張のとおり一〇万円を貸付けたことはあるがその余の事実は争う。同第四項弁済の事実は否認する。

第二、被告の主張

原告の主張する抵当権および停止条件付代物弁済契約の被担保債権は、次のとおりである。

一、被告は訴外会社に対し中古自動車の購入およびその転売を依頼し、その買入資金として訴外会社に対し次のとおり金員を預けた。

右預け金についてはいずれも予め一定の転売利益を定め訴外会社は転売利益を付加して返済する約束であった。

(1)二五万円 昭和四一年九月五日交付した預け金の残金で、同年九月二五日返済の約定があった。

(2)五八万円 同年九月一六日交付し、同年一〇月五日に転売利益として八分の割合による金員を付加して返済する約定があった。

(3)五〇万円 同年九月一九日交付し、同月二九日に転売利益として三分の割合による金員を付加して返済する旨約定し、更に右返済期日から一〇日間同一の条件で預け、その後更に同一条件で一〇日間預けたもの。

二、右預け金につき、訴外会社は、昭和四一年一〇月一七日預け金の返済に代えて三〇万六〇〇〇円相当の中古自動車を被告に交付したに過ぎないから、右預け金合計額からこれを差引き、前記約定利益金ならびに約定返済期日以後前記抵当権ならびに停止条件付代物弁済契約をした日までの年六分の割合による遅延損害金を加算すると被告の訴外会社に対する預け金は一一二万二九一四円となる。

三、そこで同日、うち一一〇万円の債権と同日貸付けた前記一〇万円の貸金債権の合計一二〇万円を目的として訴外会社との間で弁済期を昭和四二年三月一五日利息年一割五分で、遅延損害金年三割とする準消費貸借契約をし、これを被担保債権として前記抵当権設定ならびに停止条件付代物弁済契約をしたものである。

(証拠の提出援用)<省略>

理由

本件建物につき、原告主張のとおりの各登記がなされていること、右各登記は、訴外会社の被告に対する元本金を一二〇万円とする債務を担保するため、原告を物上保証人として登記されたものであること、以上の事実については当事者間に争いがない。

被告は、右被担保債権は、昭和四一年一一月一六日訴外会社に貸渡した一〇万円と、同日までの訴外会社に対する預け金一一〇万円の合計一二〇万円につき、同日これを目的として弁済期昭和四二年三月一五日、利息年一割五分、損害金年三割と定めて準消費貸借契約をしこれを被担保債権とした旨主張し、原告は、被告の右主張事実中元金一〇万円の貸金債務およびこれに対する年一割五分の割合による利息につきこれを被担保債権として成立したことのみを認め、その余の事実を否認し、被担保債権については、原告は訴外会社に対し新たに総額一二〇万円の貸付をする約束でこれを被担保債権として右各登記をしたものである旨主張するのでこの点について判断する。

<証拠>によると次のような事実が認められる。

訴外会社は自動車の購入資金として昭和三九年末頃から多数回にわたり被告から金員を借り受けていたが、昭和四一年一〇月一五日資金に窮し取引停止処分を受けた。訴外会社の代表者である訴外渡部敬三は、小学校時代からの友人でかねてより資金援助を約されていた原告から本件建物を担保として金策をすすめることの承諾を得、金策にほん走していたところ、被告より本件建物を担保として供するならば一二〇万円程度の金員を貸渡してもよい旨申出があったので、訴外渡部敬三はこれを資金として訴外会社の再建を図るべく、昭和四一年一一月一六日被告より一二〇万円を利息年一割五分遅延損害金年三割、弁済期昭和四二年三月一五日と定めて借り受けることとし、原告を物上保証人として即日原告主張の各登記申請手続を了した。貸付金については登記申請手続を了えると同時に交付する約束であったが、被告は、登記申請手続が済んだ際一〇万円を貸付金の一部として交付しただけで、残余金は現実に登記がなされたのちに交付するとしてこれを交付せず、その後訴外渡部敬三より再三にわたって残余金の交付を要求されたのに対し同月二六日に至り同日付の書面で、訴外会社に対し、残金一一〇万円については、訴外会社に対する既存の債権一三三万円について対等額で相殺する旨の意思表示をし、ついに残金一一〇万円についてはこれを交付しなかったものであることが認められる。

被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前記各証拠に照らし措信できない。他に右認定に反する証拠はなく、被告が主張するように準消費貸借契約が成立したものと認めるに足りる証拠はない。

してみると、当事者間に争いのない一〇万円のほかには消費貸借契約としての金員の交付がなく、右一〇万円のほかには消費貸借契約の成立がなかったものというべく、被担保債権としては一〇万円の限度でのみ存在し、その余については存在しないものというのほかない。

次に、原告は右被担保債権は弁済により消滅した旨主張するが、全証拠を検討してもこれを認めるに足りる証拠はない。なおほど<証拠>によると原告は昭和四二年三月一日被告の受領拒絶を理由として同日までの利息を加えて一〇万四三五七円を弁済のために供託した事実が認められるが、原告において、被告に対し、弁済のための提供をし被告がその受領を拒絶したものと認めるに足りる証拠資料はないから右弁済のための供託によっては弁済の効果を生じない。

以上のとおりであるから、弁済を前提とする原告の主たる請求は理由がないが、右被担保債権一〇万円とこれに対するその貸付の日である昭和四一年一一月一六日以降その弁済期である昭和四二年三月一五日まで前記争いのない年一割五分の割合による約定利息および同月一六日以降その支払いのあるまで前記認定にかかる年三割の割合による約定遅延損害金の支払いがあるときは被担保債権は消滅するから右支払いがあるのと引換えに右各登記の抹消登記手続をしなければならないものということができる。従って原告の予備的請求はこれと同じ趣旨に出たものであるから理由がある(原告の予備的請求の趣旨によると、利息金の起算日において右判示するところと一日異なるのででこの部分については失当であり利息および遅延損害金の利率につき明示を欠いているが右判示のとおりの引換給付の条件を付することは原告の申立の趣旨に反するものではないと解せられる)。

<以下省略>。

(裁判官 川上正俊)

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